私を失ってから後悔しても遅い ~冷えきった家族を捨てた女の華麗なる転身

私を失ってから後悔しても遅い ~冷えきった家族を捨てた女の華麗なる転身

汐音 · 連載中 · 619.7k 文字

892
トレンド
52.3k
閲覧数
2.7k
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

十年の愛は、たった一瞬で崩れ去った。

長谷川栞は、夫と子どものためにすべてを捧げてきた。
家族を守ることこそ、自分の幸せだと信じていたから。

けれど、ある日気づいてしまう。
自分が大切にしていた「家族」は、いつの間にか自分だけが必死にしがみついていたものだった。

夫は別の女性の隣で笑い、子どもはその人を受け入れていた。
彼らにとって、自分はもう必要な存在ではないのかもしれない。

その瞬間、長谷川栞は決めた。

――もう、誰かのために生きるのは終わり。

離婚を選び、過去の自分を捨てた彼女は、眠らせていた才能を再び呼び覚ます。
絵筆を握り、仕事に向き合い、失われた時間を取り戻していく。
かつて誰かに選ばれることを願っていた女性は、やがて誰もが憧れる存在へと変わっていった。

一方、彼女を失った夫と息子は、初めてその大切さに気づく。

「戻ってきてほしい」
「もう一度、家族になりたい」

どれほど涙を流し、どれほど後悔しても――。

長谷川栞は、もう振り返らない。

これは、愛に傷ついた女性が、自分自身の人生を取り戻す物語。
かつて捨てられた彼女が、今度は世界に選ばれるまでの逆転劇。

チャプター 1

「栞、前に話した件……もう決めた? おじいちゃん、かなり危ないの。私とお父さんには、あんたしか娘がいない。……それでも、家に戻って会社を継ぐ気はないの?」

がらんとした部屋で、長谷川栞は絵筆を握ったまま、受話器の向こうの母の疲れた声を聞いていた。

薄暗い室内。キャンバスに描かれた三人家族へ、最後の一筆を落とす。

――今回も、きっと無理だ。

電話口の空気がそう固まりかけた、その瞬間。

「……うん。いいよ」

長谷川母が息を呑む。予想外だったのだろう。

「え……ほ、本当に? 同意するの?」

「はい」栞の声は静かだった。「同意します。ただ、こっちの片づけがあるから少し時間がほしい。半月以内には戻る」

いくつか事務的な確認を交わし、通話を切る。

栞は部屋を出て、二階の廊下からロビーを見下ろした。

そこにいるのは三人。

視線が、ソファに座る男へ滑る。

整った目鼻立ち。彫りは深いが鋭さはなく、内に沈むような気配をまとっている。シャツもスラックスも皺ひとつなく、ボタンは喉元まできっちり留められていた。――育ちの良さと品が、隠しようもない。

この男が、彼女の夫。

家の決めた縁談を拒み、家と決裂してまで「この人じゃなきゃ嫌だ」と結婚した相手。

帝京市の中野社長は、いつも笑わないことで有名だ。界隈では「クールな御曹司」と呼ばれる。

その彼が今、ひとりの女に穏やかな声で何かを言っていた。

隣では、五、六歳のやけに整った顔立ちの男の子が、女の胸へ飛び込む。

「美希おばさん、金目鯛の煮付けが食べたい! 作って、ね?」

中尾美希は愛おしそうに彼の鼻先をつんと突き、微笑んだ。

「いいよ」

中野蓮の目がぱっと輝く。

「美希おばさん、最高! ママはさ、あんまり食べさせてくれないんだもん」

口を尖らせる。

「じゃあ今日は、蓮はいっぱい食べようね」

「うん!」甘い笑顔のまま、子どもは言った。

「美希おばさんが本当のママだったらよかったのに」

中尾美希の笑みが、さらに深くなる。

二階に立つ栞の胸が、じわりと痛んだ。

子どもは加減を知らない。食べ過ぎてお腹を壊すのを見たくないから、制限しているだけなのに。

もう見ていられなかった。

夫と息子。自分のはずなのに、三人のほうが「家族」に見える。自分だけが異物だった。

栞は背を向け、部屋へ戻った。

ほどなくして、廊下に足音。

中尾美希が入ってくる。

丁寧に作り込まれたメイク、柔らかな笑み。

「栞さん、一緒に下りて、蓮のお誕生日お祝いしましょう?」

――元は、彼女の部下のインターンだった。

貧しい家庭、能力は「悪くない」程度。仕事が見つからなければ田舎へ戻って結婚するしかない、と泣きながら訴えた。

栞は情にほだされ、会社に入れた。

まさか、自分の手で家庭を壊す相手を招き入れることになるなんて。

中尾美希は意図的に栞を真似た。華辰グループの新しい社長夫人になろうとした。

気づいた時には、彼女は家に入り込み、夫と息子にすっかり馴染んでいた。

栞はその仮面の下を見抜いている。

そして、自分の「狼を家に入れた」愚かさを、ずっと恨んでもいる。

「具合が悪いから、行かない」

冷たく言うと、美希は無垢を装って言葉を重ねた。

「栞さん、あなたは蓮のママです。蓮には、あなたの祝福が必要ですよ」

栞は眉を寄せ、断ろうとして――ふと、息を吐いた。

これは大人同士の問題だ。蓮は子ども。巻き込むべきじゃない。

母親として、祝福だけはしてやらなきゃ。

画材を置き、美希の肩をかすめて階段を下りる。

無視された美希の笑顔が一瞬だけ固まり、目の奥に陰が走った。それでも彼女も後を追う。

食卓に近づいた瞬間、栞は立ち尽くした。

十年前。

自分を鍛えるために華辰グループへ入り、中野航平と出会い、喧嘩しながら恋に落ち、結婚した。家の決めた道を拒み、家と決裂してまで。

この十年、後悔はなかった。

金も顔もあって自分に優しい夫。頭が良くて可愛い子ども。

私は幸せだ、と本気で思っていた。

――でも。

父子のために甲斐甲斐しく取り分ける美希を見て、栞は理解する。

彼女が現れて、すべてが変わった。

箸を取った途端、胃がむかついた。

栞は箸を置き、洗面所へ駆け込み、吐き気に耐えながらえずく。

航平が立ち上がりかけたが、焦った顔の美希が止めた。

「中野社長、栞さん、どうしたんですか?」

「最近ずっとこうだ。大丈夫、心配するな」

航平はそう言い、洗面所のほうへ視線を投げて冷たく笑った。

「今度の言い訳は何だ? 風邪か? 家の飯がまずいか?」

栞は答えない。ティッシュで口元を拭う。

――妊娠してる、なんて言って信じる?

……いい。どうせ出ていく。言う必要なんてない。

夫と不倫相手の関係を壊す気もない。

秘書のくせに、上司を咎めるように美希が甘えた声を出す。

「中野社長、そんな言い方しないで。栞さん、本当に辛いのかもしれません。最近すごく痩せて……」

立ち上がり、熱い水を注いで差し出した。

「栞さん、大丈夫ですか? お水、どうぞ」

栞はまだ気持ち悪い。何より、その顔を見たくない。苛立って手で押し返す。

力を入れたつもりはなかった。

だが美希は、押された勢いに合わせてわざとよろけ、湯が自分の手にかかった。

「あっ――!」

「美希!」

「美希おばさん!」

航平と蓮がほぼ同時に駆け寄り、真っ赤になった手を覗き込む。

蓮の瞳に涙が溜まる。

「美希おばさん、痛い? すごく痛い?」

美希は健気に笑ってみせた。

「大丈夫、蓮。おばさんが気をつけてなかっただけ。痛くないよ」

航平が栞を睨む。目に火がつきそうだった。

「また何をやってる!」

栞は胸が裂けそうだった。

美希の得意げな視線。

そして、息子が庇うように美希の前に立つ姿。

絶望に目を閉じる。

「……私じゃない」

信じてもらえるはずがない。

かかりつけ医が来た。航平は美希を支え、自分の胸に寄せる。深い瞳にも失望が浮かんでいた。

「栞……変わったな。昔のお前は、嫉妬でこんなことはしなかった」

変わった?

――変わったよ。

十年前の私は、自然分娩で腹に皺が刻まれることもなかった。

家事に追われて睡眠時間を削り、肌がくすむこともなかった。

男の一言で仕事を捨て、台所に立ち、挙げ句に新人に取って代わられることも。

栞は突然、ひどく疲れた。

言い訳の言葉を飲み込み、踵を返して二階へ上がる。

部屋に入る前、もう一度だけ見下ろした。

混乱の中心で、かつて命より大事だと思った夫と息子が、変わらず美希を囲んでいる。

栞は自嘲気味に首を振り、そっと腹を撫でる。

スマホに「離れるまでのカウントダウン」を設定した。

そして、振り返らずに部屋へ戻る。

これから先、もう二度と――彼らを邪魔しない。

最新チャプター

おすすめ 😍

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

606.5k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
鈴木七海は、中村健に好きな人がいることをずっと知っていた。それでも、彼との結婚を選んだ。
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
夫と息子に捨てられた私は、幸福という名の檻を抜け出すことにした

夫と息子に捨てられた私は、幸福という名の檻を抜け出すことにした

45k 閲覧数 · 連載中 · 白石 茉鈴​
嫁ぐ前は、夢見ていた。幸せな家庭を築けると信じていた。
しかし現実の結婚生活は、私を泥のような惨めな境遇へと引きずり落とした。
夫と息子にとって、私は愛人の飼い犬にさえ劣る存在でしかなかったのだ。
離婚届に淡々と署名する二人の姿を前に、私の心は不思議と静まり返った。
「そう、それでいいわ」
最後に乾いた笑みを浮かべ、私は決別を告げる。
今日で、私たちは正真正銘の赤の他人。
億万長者のシンデレラ

億万長者のシンデレラ

47.1k 閲覧数 · 完結 · Laurie
「キスはしない」彼の声は冷たかった。
そうよね、これはただのビジネスだもの……
でも、彼の触れる手は温かくて……誘惑的で……
「処女なのか?」突然、彼は私を見つめた……

*****

エマ・ウェルズ。卒業を控えた女子大生。継母のジェーンと義姉のアンナから虐待を受け続けてきた彼女の人生で、唯一の希望は王子様のような恋人マシュー・デイビッド。世界一幸せな女性にすると約束してくれた人。

しかし、彼女の世界は完全に崩れ去った。継母が老人から結納金として5万ドルを受け取り、彼女を嫁がせることに同意したのだ。さらに追い打ちをかけるように、愛する恋人が親友のビビアン・ストーンと浮気をしていたことを知る。

土砂降りの雨の中、通りを歩きながら、彼女は絶望の淵に立たされていた……

拳を握りしめ、決意した。売られる運命なら、自分で売り手になってやる。

豪華な車の前に飛び出し、立ち止まる。自分の処女は一体いくらの価値があるのだろう……

*****

デイリー更新
天才デザイナーの私と三つ子を、大富豪は取り戻したい

天才デザイナーの私と三つ子を、大富豪は取り戻したい

62.7k 閲覧数 · 連載中 · 月岛澪
実の父親と継妹にハメられ、私は瀧本知暁と一夜の過ちを強制された。
屈辱に塗れ、身一つで夜逃げするように国を去った私は、その後に彼の「三つ子」を身ごもっていることに気づく。

――6年後。
私は世界に名を馳せる天才デザイナーとなり、奪われたすべてを取り戻すために帰国した。
しかし、悪辣な嘘に目を曇らされた知暁は、私を激しく憎み、「仇敵」として冷酷に立ちはだかる。

やがてすべての真実が白日の下に晒された時、彼は己の過ちに絶望し、プライドを捨てて泣きながら私に許しを乞うた。
だが、傷つけられた私の心はもう戻らない。私は彼の懇願を、冷徹に突き放した。

――もう遅いわ。あなたを一生、許すつもりはない。

そう誓ったはずの私だったが、予想だにしない誤算があった。
私たちが産んだ愛らしい三つ子たちが、今さら戻りたいと泣く父親の、まさかの最強の味方として動き出したのだから。
人生を謳歌する

人生を謳歌する

2.7k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
大学生である私は、兄の家に住んでいた。兄嫁は魅力的で優しく、彼女のすべてが私が理想とする女性像そのものだった。青春真っ只中の私は、彼女と親密になることを夢見ることが多かった。そのような考えが間違っていることは十分にわかっていたので、できるだけ彼女と接しないようにしていた。しかし、驚いたことに、兄が勃起不全であることを知り、彼らは長い間夫婦生活を送っていないことがわかった。彼女は子供を強く望んでいて、兄が彼女を妊娠させることができないために、何度も涙を流していた。ある夜、彼女は私の部屋に入ってきて、「私に子供を授かってくれないか?」と尋ねた。パニックと興奮の間で、私は彼女の目を見ることができなかった。私はどうすればよかったのだろうか?
私が囲っている億万長者

私が囲っている億万長者

20.3k 閲覧数 · 連載中 · ほしの ちなつ
私はただ、心の痛みを紛らわせたかっただけ。

彼は息を呑むほど美しく、落ちぶれていた。夫の裏切りがもたらした傷が完全に癒えるまで、彼をそばに置いておくつもりだった。

お金で彼の付き添いを買い、すべてのルールを私が決め、すべてを完全に掌握しているつもりだった。

けれど、私の隣で横たわるこの男の正体は、彼が語ったものとはまるで違っていた。

魅惑的な笑顔と抗いがたい容姿の下に隠されていたのは、仇敵から身を隠す億万長者の素顔だった。

今や彼は、私の生活に、私のベッドに、そして私の心に――完全に絡みついている。

身を引くことは、彼のそばにいることよりも、もっと危険かもしれない。
偽りの仮面

偽りの仮面

11.9k 閲覧数 · 連載中 · 彩月遥
夫が私に抱くのは、愛の伴わない性的な欲望だけ。
彼は、私との間に子供を授かることさえ望んではいない。

そればかりか、外では他の女性と戯れ、私の心を深く傷つける。

逃げ出したい。強く、自立した女性になりたい。
そう願う私を、しかし、彼が手放すつもりは毛頭ないようだった……。
御曹司に壊される人形

御曹司に壊される人形

23.2k 閲覧数 · 連載中 · キノコ屋
ある交通事故がきっかけで、僕は最愛の人に両足を折られ、監獄に閉じ込められた。

三年後、出所した僕の前に現れたのは、やはり彼だった。

「一生、逃がさないからな」

殺意に満ちた目で、彼はそう言った。

なのに、なぜか僕には、彼の心が深い悲しみに満ちているようにしか見えなかった。
捨てられたルナの復讐

捨てられたルナの復讐

10.9k 閲覧数 · 完結 · Sherry
「ご親切なことで」

「ベラ」イーサンの声音が変わった。わたしが嫌というほど知っている、あの警告めいた刃が混じる。「いまのフェイは不安定なんだ。おまえが彼女を恨むんじゃないか、これで群れが割れるんじゃないかって、怯えてる。彼女がいちばん望んでないのは、この子が俺たちの間に入り込むことだ」

「だったら、そんなことしなければよかった」わたしは真正面から彼の目を捉え、こちらの瞳に張りついた氷を見せつけた。「息子のところへ戻って」

「いい加減にしろよ」彼は苛立ちまぎれに髪をかきむしった。「何度言えば――人工授精だ。俺の精子を使ったのはそうだが、フェイと俺は――」

ベラは冷えきった鼻笑いを漏らした。なんて厚かましい嘘。彼女の伴侶は、兄の番と関係を持ち、家族ぐるみで彼女を何も持たせず追い出した。愛人が「正しい」座に収まるために、道を空けるように。哀れな愚か者――彼は、彼女がただの厄介な養女で、簡単に切り捨てて支配できると思い込んでいた。自分が探し求めていた天才的な技術者が、まさか自分のルナだったとは、ついぞ知らずに。

彼が自らを汚した時点で、ベラの中ですべては終わった。彼女は彼を拒み、奪われたものを取り戻した。何年も密かに彼女を愛してきたヴィクターの助けを得て、頂点へと駆け上がっていく。

イーサンが彼女を取り戻そうとしたとき、こう言った。「俺たちの子どもを、父親なしで育てたいのか」

ベラは嘲るように微笑んだ。「その子の父親は、あなたじゃないわ」
私が去った日

私が去った日

13k 閲覧数 · 連載中 · バラへの愛
七年間、私は完璧な妻を演じ続けてきた。

けれど最後に彼が選んだのは、私ではなく、彼の初恋の女性だった。

夫は、私の心を深く傷つけただけではない。あの女が私の大切なジュエリーデザインを盗むことを許し、さらには実の息子までも操って、私を「怪物」だと思わせた。

嘘で塗り固められた結婚生活の中で、私は少しずつ自分を失っていった。

息が詰まるような日々。愛されていると思い込んでいた時間。すべてが偽りだった。

けれど、彼らはひとつだけ間違えた。

私を、もう戻れないところまで追い詰めたこと。

私が去ると決めたあの日。

私は、最低な夫も、母親への感謝を忘れた息子も、そして彼らによって壊された過去の自分も、すべて置き去りにした。

親友の支え。そして、私の本当の価値を見抜き、才能を認めてくれたある若き実業家との出会い。

その温かな手によって、私はもう一度、自分自身を取り戻した。

失った誇りを取り戻し、眠っていた才能を開花させ、世界へ羽ばたくデザイナーとして新たな人生を歩み始めた。

今、私の作品は世界の舞台で輝いている。

一方で、かつて私を捨てた男は、跪いて許しを乞う。

「戻ってきてくれ」と。

けれど、もう遅い。

私が去ったあの日こそが、私が本当の自分を取り戻した日。

もう二度と、過去には戻らない。
知る前の夜

知る前の夜

9.1k 閲覧数 · 連載中 · bjin09036
ホテルの一室で、見知らぬ男に私をめちゃくちゃにさせた。

二日後、インターン先に足を踏み入れると、彼が社長のデスクの向こうに座っていた。

あの夜、私を喘がせた男にコーヒーを運ぶ日々。なのに彼は、まるで一線を越えたのが私のほうだと言わんばかりの顔をする。

***

始まりは賭けだった。終わりは、彼女が決して望んではならないただ一人の男だった。

ジューン・アレクサンダーは、見ず知らずの男と寝るつもりなどなかった。だが、夢にまで見たインターンを勝ち取り、その夜を祝っていた彼女は、勢い任せの無茶な賭けに背中を押され、謎めいた男の腕の中へと導かれる。熱を帯びた気配を纏い、寡黙で、そして忘れられない男。

もう二度と会うことはない――そう思っていた。
ところが初出勤の日、オフィスに入った瞬間――
彼が新しい上司だと知る。
最高経営責任者、その人だったのだ。

たった一夜、無謀に身体を重ねた男の下で働かなければならない。ヘルメス・グランデは権力者で、冷たく、そして絶対に手を出してはいけない存在。けれど二人の間に張りつめた緊張は、どうしても消えてくれない。

距離が縮まるほど、彼女の心と、二人の秘密を守り抜くことは難しくなっていく。
追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

277.9k 閲覧数 · 完結 · あざ鳥
「お前みたいな偽物の令嬢、さっさと山奥に帰れ!」

孤児だと判明した途端、彼女は養父母から冷酷に家を追い出され、婚約者も本物の令嬢へと乗り換えた。
彼らは、彼女がこれからド田舎で悲惨な生活を送るのだとあざ笑っていた。

しかし、彼女を迎えに来た実の家族は、なんと世界を牛耳る超巨大財閥の一族だった!
さらに、彼女自身もただの小娘ではない。その正体は、世界の医学界が平伏す伝説の天才医師だったのだ。

実家に戻るや否や、彼女は神業のようなメス捌きで次々と難病患者を救い、医療界の権威たちを圧倒していく。その圧倒的な実力に、誰もが恐れる冷酷なトップ御曹司でさえも彼女に惹かれ、無限額のブラックカードを差し出す始末。

一方、彼女を追い出した養父母の家業は倒産寸前に陥り、元婚約者も彼女の本当の姿を知って絶望の淵に立たされていた。
彼らが泣きついて許しを乞うても、彼女は冷たく言い放つ。

「今さら後悔しても、もう遅いわ」